別に私は、演じ続ける竹平さんを
放っておいてもいいんだけれど
『あ、えっと、うん、あははっ
私、方向音痴だからさ
なんか道に迷っちゃってね……』
信じて...くれるだろうか
我ながら見苦しい言い訳だと思う
でも正直に楼に打ち明けたところで
楼は正義感が強いから
きっと皆に何か言ってくれると思う
けれど言ってくれたところで
楼の見ていない、陰でのいじめが
エスカレートするだけだから
止めただけで何もしなくなる
そんな綺麗な世界じゃない事を
私は知っているから
だから楼には、嘘を突き通すよ
゚*。:゚ .゚*。:゚ .゚*。:゚ .゚*。:゚ .゚*。:゚
次の日、学校へ行けば
靴箱に入っていた上履きは
近くのゴミ箱へと移動していた
……始まった
それがこれから起こる
残虐ないじめの開始を告げていた
廊下を歩いているだけで
「ねぇ、あの子でしょ?
楼くんに馴れ馴れしいって噂の子」
「そうそう
楼くんが誰にでも優しいからって
その優しさに付け込んだりして
ほんっと、たちの悪い女」
私を見た女子が
私を指差し、陰口を叩く
すると突然
『……っ!!』
鈍い音とともに
私の身体は地面へと叩きつけられた
顔を上げれば、目の前には
見下すような表情を浮かべた女子生徒が立っていた
そして彼女の右足は
この状況の元凶だと物語るように
一歩前へ出されていた
なるほど
楼がいなければ
表だろうと裏だろうと関係なく
いじめをしてくるというわけか
「やだぁ、せっかく買い換えたばっかりの上履きなのにぃ
〝ゴミ〟に踏まれちゃったぁ」
「うっわ最悪ぢゃん
あんた、土下座で謝ってこれ弁償しなさいよ!」
わざとらしい嘘泣きをしながら
〝ゴミ〟を嫌味たらしく強調する
元凶の持ち主である女子と
その元凶を指差しながら
土下座を命令する女子
怒気の含まれた口調で言いながらも
この状況を面白がっている証拠に
その口元は確かに
いやらしく弧を描いていた
目の前の彼女達にはバレないよう、
心の中で溜め息を漏らす
本当、面倒くさい……
もう少し上手い演技でもしてくれれば
私も一度は謝罪の言葉を述べただろうに
そう考え、口を閉ざしながら
制服の汚れを払って立ち上がれば
弧を描いていた唇は歪み
彼女達は偽りではない怒りを顕にし出した
「はあ? 無視してんじゃねーよ
元はと言えば、あんたが夢乃の靴汚したから
こうしてわざわざ会話してやってんでしょ?
むしろ、ウチらが感謝されるべきじゃん」
それはさながら当たり屋の如く
いちゃもんを付けながら私を睨みつける
こういう時、
反論してしまえば悪化するだけだと分かっている
だから、無言を貫き通してこの場を去ろうとした
その時……