楼に向けられていた

上目遣いでの好意の視線


そして今、私に向けられている

睨みを利かせた憎悪の視線

とても同じ人のものとは思えない


でもそれは、ほんの数秒で

すぐににっこりと笑いかけてきた

当然ながら、作り笑いだけれど
ごくり……と私の喉が音を立てた


「それで~葉月さんいいかなぁ??」


首をこてっと傾げて

疑問形で聞いてはいるけれど

その目は“ 断ったら殺すよ? ”とでも言っているような殺気を滲ませている


『……は、はぃ…………』


竹平さんのそれに気圧されて

私は震えた声で承諾した
゚*。:゚ .゚*。:゚ .゚*。:゚ .゚*。:゚ .゚*。:゚

連れて来られた場所は

少し強めの風が頬を殴る…………屋上


自殺をしようとしてから

まだ数日しか経っていない今

屋上にいるのは少し怖く

密かに震えている自身の体をそっと抱きしめた
私が屋上に両足を踏み入れた事を確認すると

突然、踵を返した竹平さんは

私を通り越し

何故か私の背後──屋上の扉へと向かった


『...え……?』


来たばかりなのにもう戻るの……?
竹平さんの意図が全く分からず

思わずそう声を漏らした直後

私の考えは否定された

竹平さんの次の行動よって……


ドサッ

なんと彼女は、扉の前に腰を下ろしたのだ
足を伸ばし

扉にもたれかかるように座っているその姿は

テディベアのようでなんとも愛らしい……はずなのだが

彼女の瞳によってその愛らしさは完全に消し去られている


彼女の瞳は何の光も映さずに

ただただ、私を鋭く睨みつけているのだ

まるで、親の仇とでも言わんばかりに
「……ねぇ」


竹平さんが徐に口を開き

そう言葉を紡ぎ出した

楼がいた時と打って変わって

声のトーンが二倍くらい低い


女子のはずなのに

ドスの効いたその声に

意識せずとも足が竦んだ
「...あんたさぁ、楼の彼女でもないくせに

楼と馴れ馴れしくしないでくれる?

目障りなのよねぇ」


楼の前では

彼のことをくん付けで呼んでいたというのに

本人がいないと呼び捨てをする竹平さん

その口ぶりは

まるで自分の物のようだ
黙ったままの私に

彼女は更に言葉を続ける


「だいたいさぁ...

抜け駆けしてまで、楼と仲良くしたいの?

あたしがファンクラブの会長だって知ってるでしょ?

抜け駆けしたら罰があるってのも分かってるんでしょ?

わざわざ罰を受けたがるとか

あんたドMとか?」


そう言って彼女はケラケラと笑った