Vol.2 喧騒
東口を出てまっすぐ歩いていく。
アルタを過ぎてスカウト通りを越えると歌舞伎の入り口だ。
昼間の歌舞伎はゴミが少し散乱して、カラスが鳴いている。
この時間はほとんど歌舞伎の中にヒトは見えなかった。
セントラルにもヒトはほとんど居ない。
パチンコの音とカラオケの音が無常にも響いている。
どの繁華街にも言えることだが、昼の繁華街ほど淋しさを感じることはないと個人的に思う。
歌舞伎もまたその例外ではないのだ。
お年寄りがコマ劇場の前に大勢居る。
ボクがイメージする歌舞伎はそこにはない。
ほんわかした、少しあったかい空気すら流れていた。
何もすることのないボクは広場に座ってヒトが通りすぎていくのを眺めながら時間を潰す。
夕方になるにつれ、街は少しずつ変化を始める。
あきらかにヒトの歩くスピードが速まるのがわかった。
よく言われる、東京のヒトは歩くスピードが速い、まさにそれだ。
お年寄りの影は消え、急激に若者が街に入り込んでくる。
黒服、派手なメークに香水の匂い、陽気な黒人にスカウトマンからホストまで、すでに酔っぱらったサラリーマン、制服を着て道端に座って楽しそうに話す女子高生。
20時になれば辺りはすっかりきらびやかなネオンに飾られ、まっすぐ歩くことさえ出来なかった。
ヒトとぶつからないで歩くことが奇跡的、今から15年程昔のボクが知っている歌舞伎はそんな所だった。
なぜ、ボクはココに居るんだろう?
何のために?
ずっとそれを考えていたのに、楽しそうに通りすぎていくヒト達を見ると少しバカバカしく感じた。
やっぱりココはボクが居られる場所ではないな、と駅を目指そうとしている時。
中年の黒服の男性に声を掛けられ歩みを止めた。
この時のたった一人のスカウトマンからの接触によって、ボクのこの後の人生は急転換する。
喧騒の中でもハッキリ聞こえた落ち着いた声。
綺麗な身嗜み、スッキリまとまめた髪の毛。
どことなく余裕のある態度でありながら、それが嫌だとは感じさせない。
まさに紳士の振る舞いな彼に、ボクは手招きをされて歌舞伎の奥底に足を踏み入れていく。
ついさっきまでココを離れようとしたボクを引き止めたモノ。
彼があまりに話がウマイから?
きっと違う。
やはり今の自分を変える為には、何かに本気でぶつかってみるしかない。
悪く言えば浅はかな、逆に言えば勇気ある決断。
とにかく何かのキッカケで今からというスタートを切りたかったのだ。
この先にある道が棘の道であろうとも、ボクはもう振り返らない、そう本気で覚悟した瞬間。
正しいのか間違いなのか、隠しきれない不安を抱いてそれでも、進むことを選んだ。
ココで生きてみようか?
自問自答。
ボクはボクに問い答えを出したのだ。
何もかもが新しい世界で、そして一人で生き抜いていくにはあまりに厳しい街の中でもがいて生きてみよう、と。