Vol.11 水商売



ボクは人間と人間が交わり合う上で一番重要なコトは「タイミング」だと思っている。

この「タイミング」こそ、ヒトの未来を左右する。

例えばアナタに恋人が居るとして、その時にその恋人以上のタイプなヒトと出会ったり、フィーリングの合うヒトと出会ったところでそのヒトと結ばれる可能性は著しく低下する。

その時、たまたま恋人が居なければもしかしたら、という可能性は無限大であるのに。

良くスキになったヒトがワタシのタイプというフレーズを聞くがあれは1つの自己暗示だと唱える哲学者が居る。

人間には元々罪悪感というモノが心底に存在している。

抑制力、つまり自己防衛する力が必ず働くようになっている。

欲望のままに生きていけない生き物だからこそ、人間である証明とも言えるし、それが道徳的なコトにつながるのだ。

自己暗示とは、自分を肯定する為、間違っていないし正常だと思い込む為のモノだと言えるのではないだろうか。

だから恋人が居る間に、他にスキなヒトが出来づらくなる。

恋人が居るにも関わらず、次々とスキなヒトが変わっていくのもおかしい話だが、欲望のままに生きるのであればそれが当然のコトだ。

ホストクラブという空間は、その女性の持つ心底で抑制されている欲望を開放させる為に存在している場所だとボクは思う。

その欲望の開放はとても依存性が強い上に危険な為、世間一般からはホストクラブなんて理解出来ない場所、行ってはいけない場所と認知されているのではないか?

もしアナタの本当の親友がホストにハマッてたらどうするか?

もしアナタの家族、例えば妹が居たとしてその妹がホストにハマッてたらどうするか?

やはり1度くらいは止めるのではないだろうか。

1度とは言わず、縁を切らす為に全力を尽くすという人も少なくないのではないだろうか。

それとも本人の意思を尊重してあげる為に自由にさせてあげるのか?

一人一人違う答えがある為に、どこにも正解はない。

だからアナタはアナタの、彼には彼の、彼女には彼女の、ボクにはボクの答えを出さなければならない。

ボクが水商売を上がってから沢山のこう言った相談が寄せられた時期がある。

友達がホストにハマッてるから助けて欲しい。

ワタシ自身ホストにハマッてるけど、繋がりを消すコトが出来ない。

ボクに出来るコトは、ボクの今までの経験を赤裸々に話すコトだけ。

しかし、それだけで十分事足りるコトもあった。

ワタシの担当は他のホストとは違う、初めはそう言っていた彼女達が最後は涙を流しながら1つの人間関係を終わらせたりもした。

他のホストとは違う?

では、他のホストはどういうモノでアナタの担当のホストはどういうモノなわけ?それをボクにわかるように教えて?

あっ、そういうコトボクも言ってた、そしてボクはそれ以上にこういうコトも言ってたな。

そこまで言ってあげれば彼女達が言うワタシの特別な担当、は普通のホストになる。

現場の真実の言葉というモノは、彼女らが聞いている幻想の言葉とは全く違うのだ。

ホストクラブが、ホストが間違っているコトも沢山あるが、客が間違っているコトも沢山あるのだ。

ボク自身がホストであった為に、ホストを否定は出来ないが肯定も出来ない。

ホストクラブとは少し関係ないが、少し前に興味深いニュースがあった。

銀座の有名なあるママが会社経営の男性客と何年もの間、肉体関係を持っていた。

そしてその会社経営の男は既婚者でそのコトが妻にバレた。

その妻は不貞であり結婚生活を脅かすコトとして裁判所にそのママを訴えた。

裁判所はこの申し立てを棄却、破棄、ママは無罪。

その上で、

このママのとった行動は枕営業というモノにあたり仕事の一環として行った正当なモノだと、そういうようなニュアンスで法の番人、裁判所が謳ったのだ。

これにはボクも衝撃を受けずにはいられなかった。

まず、日本の裁判所が枕営業という言葉を正式に使ったというコト。

それから、水商売において枕営業、つまり客とsexするコトが違法ではない、と日本の裁判所が初めてハッキリと言ったコト。

そしてこれは遠回しに、その枕営業によるsexによってその人間関係、家族関係がどうなっても仕事上のコトであり、個人達のコトだから何も問題ない、としたってコトだとボクは理解した。

だって水商売としてではなく、本気でママが彼のコトを恋愛対象として考えてsexをしていたなら罰が下されるのだから。

これは女性が働く高級クラブの話ではあるが、そうすると、男性の働くホストクラブもこれが適用されるのは目に見えている。

判例というモノがココに出来てしまったのだ。

それならば、色恋、枕、それ以外にも詐欺に近い行為を行ったとしても、全て営業であると言えばそれが例え不倫であろうとも犯罪行為であろうともいつか合法化されてしまうのではないか、という恐怖感。

水商売とはそれほどまでに複雑化されているという事実を、全てのヒトが知識として持っているのかどうかという疑問。

世間から見るホストクラブとボクから見たホストクラブとでは、どれだけの差が生じてしまっているのだろう。

水商売は何を売る商売なのか?

ボクはその答えを出せないままで居たから、今現在、水商売をしていないのかもしれない。













ねぇ、ルイ。

あの頃のボクらはプライドもあったし、誇りもあったんだよね?

それでもいつも街に出れば後ろ指を指されてたっけ?

それなのに、いつも堂々としているルイがスキだった。

ヒトはヒト、自分は自分。

ルイが言ったその言葉を今でも良く思い出すよ?

例え社会からはみ出してると他人に思われようが、底辺の人間って思われようが、

ボクはボク自身をそうは思ってなかった。

別に水商売だから悪いわけではない、ホストだから悪いわけではないよね。

でも、実際にボクらはどれだけのヒトを苦しめてしまったんだろう?

どれだけのモノを奪ってしまったんだろう?

ボクらはホストとして、誰かを幸せにしてあげられるコトが出来てたのかな?

無責任だと知ってても、そうだったらいいなぁって、ボクは毎日考えてたんだ。






誰かがボクと居て









一瞬でも楽しみや喜び、

幸せを感じてくれてるコトを願ってさ。