看護師の声が聞こえなかった光俊は、急に止まった舞にぶつかりそうになりながら聞いた。その声にゆっくり振り返って、近い光俊の顔を鋭い目つきで見上げ、低い声で逆に舞が尋ねた。
「『許婚くん』って、誰?」
「ん?」
「『許婚くん』って、誰?」
「さぁ?????」
小刻みに首を横に振りながら少々後退りしてしまう光俊。
「知らないハズ・・・ないよね」
グッと一歩踏み込んで更に詰める舞。
「決して俺が言ったわけでは・・・」
「じゃ、誰が言ったのよ?」
「おそらく、舞さんのお母様」
「母さん?なんでよ?」
「多分、親族じゃないと入れない感じだったからじゃないっすかね?」
「・・・ふ~ん」
納得してるのか、してないのかわからないような声を出して、とりあえず舞は受付へと行って、支払いを済ませた。
「お世話になりました」
舞は、小さく頭を下げたのに合わせて、後ろから光俊も頭を下げ、2人一緒に病院を出た。
「もう、痛みはないんっすか?」
病院の敷地を出たところで、光俊が改めて舞に尋ねた。
「お陰様で。治りました。『イケイレン』」
「ククッ」
「笑いたければ笑うがいいさ。」
「いやいや、笑いませんよ」
「もう、笑った後じゃん」
「すみません。でも、これで、おあいこですから」
「ん?何が?」
にこにこしている光俊の顔を首を回して見た舞。
「ほら、俺が食費ケチって倒れて寝込んでた時、パスタ作ってくれたじゃないっすか」
「あ~~~」
舞は、その時のいろんなことを思い出した。