「さぁ~?」

「さぁって。・・・ひょっとして戻ってないの?」

「いや、戻らないっしょ普通」

そこに、さっきの50代らしき看護師がやってきた。

「あら、目が覚めたのね」

「あ、はい」

「気分はどう?胃の痛みは?」

「大丈夫です。落ちついています」

「そう。じゃ、もう帰ってもいいわよ」

「「え??」」

思わず、舞と光俊は声が揃った。

「あらやだ、もう息ぴったりね~」

看護師は楽しそうな満面の笑みで光俊を見てから舞に視線をやった。まさか、許婚だと思われているとは微塵も思っていない舞、何だか違和感を感じながらも、看護師に問いかけた。

「帰っていいんですか?」

「ええ、そうよ」

「あの、病名は・・・?」

「病名?」

今度は、看護師の方が聞き返した。

「はい」

真剣な表情で看護師を見上げる舞。光俊も表情を引き締めて看護師を見た。が、その視線に耐え切れない様に看護師は、

「ふふふっ」

と、笑い始めた。

「ふふふっ。病名?聞きたいのね。じゃあ、言うわね」

「はい」

「イケイレン」

「は?」

「だから、胃痙攣。たぶん、最近多少ストレスがあったところに、急激に何か大量に食べたんじゃないの?それで、胃がついていかなくて、痙攣起こしちゃったのね、きっと。それ以外に、悪いところはございません」

「確かに、大量に食べてました、さっき」

納得顔の光俊。舞の方は恥ずかしさのあまりいたたまれず、そっと、ベッドから出て、

「・・・お世話になりました」

と、看護婦に頭を下げた。

「いえいえ。じゃ、受付行ってから、帰ってね」

「はい」

すごすごと病室を出ようとした舞の背後から看護師が追い越す際にポンと舞の肩に手を掛け、

「何があったか知らないど、許婚くん困らしちゃだめよ」

と、小声で呟いて、先に出て行った。抜かされた舞はそのままその場に立ち止った。

「あれ?帰らないんっすか?」