「失礼します」

「あ、どうぞ、こちらですよ」

「すみません」

中に入ると、看護師の50代らしき女性が待ち構えていて、にこやかに奥のベット部屋に案内してくれた。3つ並んだベットの一番手前のベットで点滴を受けながら、舞は穏やかに眠っていた。

「今、痛み止めの注射を打ったので痛みから解放されて楽になったんでしょ。点滴はあと20分くらいかかりますのでね。いいですよ、終わるまでここにいて。その椅子使ってね」

「ああ、いや、そんなにかかるんだったら・・・」

「ふふふ。まぁ目が覚めたらもう帰っても大丈夫だから。ふふふ」

『帰ります』と光俊が言う前に看護師が、『にこやか』という笑顔から明らかに『含みのある』笑みに代わった。

「ん?何っすか?」

「いいのよ、遠慮しなくったって。さっき京極さんのお母さんにちゃんとお聞きしたから」

「え?な、なにを?」

何か不可解なものを感じ、光俊は恐る恐る問いかけた。

「もう。彼氏じゃないなんて言っちゃって。許婚なんでしょ」

「・・・は?」

「とにかく、目が覚めるまでいてあげなさいね。許婚くんっ」

と看護師は光俊のお尻をバシッ!と叩いて戻って行った。

「アイテっ」

お尻を摩りながら、看護師が仕事に戻って行くのを見送ると、光俊はとりあえず、部屋の隅に置いてある折り畳み椅子をベットの横に持って行き、舞の顔が見える位置に置いて座わりスヤスヤと眠る舞を見た。

「・・・」