「いったい!」
少女は後頭部を何か鋭利なもので突かれたような感覚に突然襲われて辺りを見回す。
視界はぼやけているがかすかに見えるのは、黒板 (なにやら数字が書かれているよう) たくさんの机とそこに座っている生徒
後頭部がだいぶ薄いおじさん どれも歪んで見える。
わかった…。これは私が自分の力で作り出してしまった新しいセカイだな。
馬鹿みたいなことを考えている間に真実はつかみ出せた、というのは大袈裟かもしれないけど、とにかく少女が今どういう状況なのかは
つかめた。
少女は寝ていたのだ。それも数学の時間に。
ただそれだけのことなのだが、寝起きの少女には理解するのに時間がかかったようで。
理解した少女は、あたかも今まで一生懸命勉強していたかのように、お気に入りのシャーペンでノートに字を写す。
「テスト前だっていうのに…。」
誰かが呆れたような声を出す。声の持ち主はすぐに分かった。
「む。テスト…勉強しすぎて眠いの!そう!てすとてすとべんきょーたいへーん。」
不意をつかれた少女は隣の席のその人、青島 朔 (あおしま さく)に適当なことを言った。
「じゃあ今回の期末は期待大だなぁ。東園 (ひがしぞの)。」
なんて言ったのは少女でも 朔でもなかった。
「せ?!先生!!」
そういったのは、数学の後頭部がだいぶ薄いおっさん先生。
困った。少女、私 東園 月妃 (ひがしぞの つきひ)は数学は大の苦手なのであった。
私がそれを顔に出して動揺すると、隣の青島は
「俺が数学教えてやろうか。」
なんて試すように笑っている。確かに青島は数学だけなら学年トップレベル。間違いなく点数は格段に上がる メリットはたくさんある。
でも、先に言っておくけれど、青島と私は幼なじみでもなければ恋人でもない。別に特別仲がいいわけではない。
こんなこと言うのもなんだけど、向こうも私のことを気にかけているわけではなく、こちらも向こうのことはなんとも思っていない。
強いて言えば、私は、さっき起こされた時に使った鋭利なものの正体が気になるだけ。
「よろしくたのむね。」
そういったのもまた、私でもなければ青島でもない。
「せ、先生!」
私は慌てる。だって中学生にはわかるだろうが、この思春期真っ只中でこんな話題が出れば、脚色も存分にされて学校中に出回るだろう。
自分のクラスではもちろん、他クラスでも冷やかされること間違いなし。
平凡に頑張って卒業。という私の目標が遠ざかっていく。
それなのに青島ったら全く顔色も変えずに、当たり前 って顔してる。意味わかんないよ。
意味がわからないし、これから大変になるし、恥ずかしいし、断れないし。
でも、嫌じゃない
えっ、私今、嫌じゃないって思ったのかな。こんなに色々嫌なことがあるのに。ううん、きっと点数が上がるのが嬉しいだけだ。
自分でそう言い聞かせた。
だってそうじゃないとまるで私が青島のこと…
このまま頼んじゃおうかな。 そう軽く考えたのだが、やはり苦難は待ち受けていたのだ。
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