"あの人"……?



「"あの人"って誰だよ」


「あ、あの人はあの人だよ!!」


「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ」


「ひっ!!た、頼む、殴らないでくれ!!
俺からは何も言えないんだ!!」



何だそれ、意味分かんねぇ。


でも、喧嘩する相手はコイツじゃないっていう事は分かった。



「……屋上に行って、"あの人"とやるってわけか?」


「あ、あぁ……」


「それなら最初からそう言えよ。誤解するだろ」



襟元を掴んでいた手を離すと、男子生徒はストンと尻餅をついた。


そして、呆けた様子で俺を見上げる。



「…お前、"あの人"が怖くねぇのかよ……?」


「怖いも何も、そいつが誰かも知らねぇしな」


「そう、か……」



少し迷ったように目を泳がせた後、そいつは俺の目を見て口を開いた。