「やべぇな...武道出来るとかリスペクトだわ」

「蓮央さんのパンチを軽く避けるとか恐ろしいな」



方々から聞こえる、睡蓮メンバーの声。


俺が技をかけたせいでさっきまでの雰囲気が無くなってしまい、やばいと自覚した。


喧嘩に武道は御法度だよな。



「合気道はあくまで護身用だ、もう技はかけねぇよ。続きやるぞ」



場の雰囲気を切り替えるためにそう言うと、南は軽く笑った。

それに続いて本条も笑う。


2人からは、全く戦意が見えない。


どういうことだ……?


怪訝な顔をする俺を無視し、南は本条を振り返った。



「そっちはどうだ、圭太」


「怪物並かって言われればそうでも無いけど、多分今はマジで手加減してくれたんだろうな。キレたら相当ヤバそうな目はしてる」


「やっぱりそうか」



意味不明な会話。


真浩もこっちを見て「何の話?」と首を傾げている。


……息切れひとつせずに、だ。


お前やられてた感じだったけど全然余裕じゃねーか...。



「マジで手加減してんじゃねーよ、バカ」


「だって勝てると思ったんだもん」


「思いっ切り負けてただろうが」


「途中から『あ、強いな〜』とは思ったけど、本気出したら止められなそうで」


「そんなんだから怪物って呼ばれんだよ…」



真浩は実際、俺より相当強いと思う。


普段が温厚なだけに、その反動で本気で怒ると手がつけられないのは分かる。


いつか怒りの矛先が俺に向くのが怖いな。



「歩、真浩〜!!」



突如響いてきた大声に、顔を上げる。


丁度、銀髪野郎が階段を駆け下りてきたところだった。


俺らに向かって手を振りながら駆け寄ってくる。



「無事で良かったな〜…...…ぐふっ!!?」



俺と真浩は、そんな銀髪の腹に同時に本気の蹴りを入れた。