一瞬にして距離を詰めガラ空きの腹部を狙う。


が、利き足を突き出しても手応えがない。


避けられたと悟った俺は、右側に僅かな殺気を感じた。


...来やがったか。


態勢を整えることは不可能で、咄嗟に腕でガードを作った。


その直後、腕に伝わる振動と痛み。


肩から手首までがビリビリと痺れた。


あまりの衝撃に「マジかよ」と心の中で呟きながらも、表情には出さない。



「へーぇ、よく防いだな」



感心したような南の声が耳障りだ。


痺れたままの腕はすぐには使えず、代わりに足で脇腹に蹴りを入れる。


今度は手応えがあった。


しかしダメージは大きくないらしく、向こうはほんの少し顔を歪めただけ。


チッ...。

コイツには、普通の喧嘩は通用しねぇか。


チラリと真浩の方を見ると、アイツもアイツで苦戦している。


攻撃を決めてはいるものの、食らうダメージのほうが大きそうだ。


対して本条は、涼やかな顔で攻撃をかわしながらたまに攻める。


あの真浩ですら、押されてんのか…。



「その程度で俺らに喧嘩売ったのか?
とんだ期待ハズレだったな」



南はつまらなそうにため息をつく。


仕方ねぇ。

この際だ、戦法を変えるか。


作戦を変更した俺は、南を挑発することにした。



「...来いよ。まだ始まったばっかだろうが」


「まだやる気かよ。めんどくせーな…。
つまんねぇし、次の1発で終わらせてやるよ」



そう言ってグッと拳を握った南は、目にも止まらないスピードで殴りかかってくる。


俺は突っ立ったまま、ギリギリまで引き寄せて──…




突き出された腕を、軽く押した。