「歩」



ふいに真浩が俺を呼んだ。


視線を下ろすと、真浩はこっちを見上げて、満面の笑みを浮かべた。



「...ちゃんと手加減してあげなよ?」



2人に聞こえるようにわざと大きな声で発せられた言葉で、その場の全員が困惑した。


……俺と真浩を除く、全員が。


南と本条も信じられないという表情で真浩を凝視している。


それに構わず、本人は屈託のない笑みを浮かべながら俺の返事を待つ。


…このバカ、どこまで喧嘩売れば気が済むんだか。


と思いながらも、自然に笑いがこぼれた。



「……真浩もハンデつけてやれよ」


「うん、そうじゃないと可哀想だもん!」


「だな」


「お前ら...始まってから後悔すんなよ?」



引きつった顔の本条たち。


こんな挑発をされたことは無いのか、相当怒っている様子。



「楽に勝てると思ったら大間違いだからな」



……当然、俺もコイツも、この2人に手を抜いてでも勝てるなんて思ってない。


『勝つ』ことだけを考えれば、本条の案を受け入れるのが妥当。


...が、それだと面白くねぇ。


勝ちが見えてる勝負なんかやる意味が無い。


自分より上のレベルの奴との戦いが、何よりも興奮する。


久しぶりの本気の勝負に、体が熱くなった。



「……楽しませてくれよ、総長さん」


「それはこっちのセリフだ。
俺に喧嘩を売るくらいだから、お前相当やれんだろうな?」


「疑うなら…その体に叩き込んでやるよ」



俺の言葉にフッと笑った南が拳を作った瞬間、俺は地面を蹴った。