泉里は、近付いてくる総長に無反応だった。
ただ鋭く睨んで、一歩も動かない。
そんな泉里を見て、総長は口角を上げる。
「...あーあ、失敗したな。
お前を俺らの仲間にすりゃあ良かった」
「黙れ。お前らも潰してやる」
「ふっ、…上等」
そこから、総長と泉里のタイマンが始まった。
屋上に、互いを殴る音が響く。
やられてはやり返し、またやり返す。
互角の攻防戦だった。
どちらも倒れる気配は全く無く、地面に膝をつくことすらしない。
異次元を見ているような感覚で、俺は動かない体でただそれを眺めていた。
力は互角。
...このまま、勝負がつかないのかとすら思われた。
でも、その均衡が崩れたのは一瞬で。
──ガッ!!
風を切って、総長の回し蹴りが泉里に当たる。
よろけた泉里は、背後にあったフェンスに体を預けた。
――それが、間違いだった。