「お前も……俺を、裏切るのかよっ...」



消え入るような声に、伏せていた顔を上げた。


泉里は怒りに満ちた表情で俺を睨みつけていた。


……それは、俺の知らない泉里だった。


その泉里が、グッと拳を握って。



「っざけんな!歩!!」



振り下ろされたそれを、反射的に間一髪で避けた。


蹴りだけでコンクリートをも破壊する泉里が容赦なく振り下ろした拳は、地面に当たるスレスレで止まる。


ふっ、と、泉里の口元に笑みが浮かんだ。


そして、憎々しげに俺を睨む。



「...避けてんじゃねぇよ」



低く地を這うような声に、その場の全員が言葉を失っていた。


俺も、総長も。



目の前にいるこの男は誰だ?


泉里なのに泉里じゃない。


目が違う。


俺に本気の攻撃を仕掛けてくるなんて、思ってもみなかった。


まさか……嘘だろ…?



「泉、里……」


「死ねよ。裏切り者が」



俺の呼び掛けに反応することなく、低く呟いた泉里は攻撃を繰り出す。


そのスピードはハンパなものではなく、避けることすらままならない。


防御に徹する俺は、泉里に呼びかけ続けた。



「泉里!!どうしたんだよ、お前っ!」


「それはこっちの台詞だ!何でそうやって裏切んだよ!!
俺は、お前のこと信じてたんだ!!」


「泉っ……」


「いつもいつも...そうやって皆消える!!」



『いつも』...?


泉里の言葉の意味を考えていたら、その隙をつかれた。