「歩ー!合気道の練習行くぞ!!」
「...声がデカイんだよ、泉里。
俺は合気道なんか習ってねぇっての」
「あ、お前今、合気道をバカにしただろ?
あの武道はすげーぞ?」
隣で人をなぎ倒すポーズをとりながら熱弁しているのは、数週間に出会った泉里。
才色兼備のお坊ちゃんでありながら、無鉄砲で大胆で怖いもの知らず。
まさに夏目漱石の「坊ちゃん」のような奴だ。
俺はこいつとすぐに打ち解けてしまい、何故か行動を共にするようになった。
「なぁ歩、やっぱ今日は俺の家でゲームでもしようぜ?かわいーかわいー妹がいるんだよ、まだ6歳の」
「妹いたのかよ。...まぁ別に構わねーけど、負けそうになるとキレて暴れるのはやめろよ」
「俺がいつそんなことしたよー」
「昨日、お前が踏みつけて壊したコントローラー見せるか?」
「……すんませんした」
泉里はかなりのゲーマーで、俺よりたくさんのゲームを持ってる。
...の割に、俺よりかなり弱い。
コイツのせいで俺のゲームが何台犠牲になったか、計り知れない。
もう壊されるのは勘弁だと思いつつ、ふと話題を変えてみる。
「つか...泉里、お前また3年をやったって聞いたけど大丈夫なのかよ」
「え?あぁ、カスリ傷ひとつ無い!
結構弱かったし!」
「そうじゃなくてさ...」
呑気な泉里に呆れながらも、親指でクイッと後ろを指さした。
そこには、ガラの悪い高校生が5人。
タバコをくわえ、こっちを睨んでいる。