そこには、手すりに寄りかかって、顔だけをこちらに向けている榊の姿が。
俺の登場にさして驚いたような顔もせず、いつも通りの笑顔を向けてきた。
「久しぶり、歩」
「…あぁ」
久しぶりって言うほどの日は経ってないが…ああ言った手前、少し気まずい。
でもまぁ、黙ってるのも不自然か……。
榊の方に歩み寄りながら、話題を探す。
「…こんな所にいるなんて、どうかしたのかよ」
「特に何も…人を待ってるだけ」
「こんな屋上で、か?どうせなら教室で待てばいいだろ」
「……ここじゃなきゃダメなんだ」
薄く笑いながら、静かに言う榊。
前から思ってたけど、変わった奴…
こんな所を、何が良くて選んだのか。
俺には分からねぇな。
「でもさ、僕、もう待たなくていいみたい」
「……は?」
突然発せられた言葉に、思わず眉を寄せる。
何言ってんだ、こいつ。
「さっきまで『人を待ってる』とか言ってたじゃねーか」
「うん、でも……歩を待ってたから」
「はっ?なんでお前が俺を待ってんだよ…」
そこまで言って、ハッとした。
俺は、"怪物"に呼び出されてここに来た。
で、いるのはコイツ。
コイツも人を待っていると言っていた。
ということは、だ。
──まさか。