「あ」

 着替えようと上着を脱いだとき、首が引き攣れる感覚と共に、ぷち、と音がした。

「ああっ! しまった!」

 慌てて脱ごうとしていた上着を戻し、しゃがみ込む。
 しゃらん、と華奢な鎖が足元に落ちた。

「ああ~~。やっちゃった」

 鎖を取り上げ、まじまじと見る。
 トップについていた小さなダイヤが落ちないよう大事に摘んで、切れた部分を合わせて見た。
 だが工具がないと直せないような、特殊な鎖だ。

「困ったな。どうしよう」

 しょぼん、とへたり込んでいると、玄関のドアが開く音がした。
 彼が帰って来たようだ。

「お帰りなさい」

 とりあえず、そろ、と切れた鎖を机に置き、彼女は彼を出迎えた。

「……どうした」

 彼はいつでもすぐに彼女の変化に気付く。
 この彼に嘘は通用しないため、彼女は彼の鞄を持って廊下を歩きながら、素直に言った。

「ネックレスが壊れちゃった」

 彼が振り向き、彼女を見る。
 彼が彼女の首につけて以来、ずっとそこにあった細い鎖が見当たらない。

「ごめんね。折角大事にしてたのに。これ、直らないかな」

 しょんぼりと、机の上に置かれたネックレスを見る彼女の頭を、彼はわしわしと手荒く撫でた。

「気にすんな。それぐらい、また買ってやる」

 が、彼女はふるふると首を振る。

「違うもん。これは課長が、初めてくれたものだもん。一番大事な宝物なんだもん」

 またどこかのゆるキャラのような喋り方だ、と内心突っ込みながらも、彼は鎖を取り上げた。
 切れた部分をしばらく見、引き出しを開けて細いペンチを取り出す。

「課長、直せるの?」

「多分な。店に持って行ってもいいが……」

 俺が直したほうがいいだろ、と小さく呟く。
 こく、と頷き、彼女は彼の横に座って、祈るような目で彼の手元を覗き込んだ。

「ほら、できた」

 しばらくして、鎖は無事繋がった。

「凄い!」

 先程までの沈んだ表情が吹っ飛び、彼女が嬉しそうに言う。
 彼はそのまま、彼女の首にネックレスをつけてやった。

「ありがとう! もう壊さないようにするね!」

「また壊しても、直してやるさ」

 嬉しそうに笑う彼女こそ、彼にとっては宝なのだった。


*****終*****