食後に、夫は制服の手入れとアイロン掛けをした。
これからは私がするつもりでそばで見ていたのだけれど……夫は自分ですると言い張った。
海上自衛隊は海軍時代から、特に身だしなみに厳しいらしい。

「じゃあ、お洗濯は私がしますけど、後はよろしくお願いします。」
1つずつ、話し合って分担を決めていく。
……夫は、独り暮らしが長いので、家事が苦じゃないらしく、私はむしろ母と暮らしていた頃よりも楽かもしれなかった。


翌日、新車が納品された。
真っ赤なトヨタ86。
思ってた以上に低い車高に驚いたが、かっこいいとも思った。

……さすが、章(あきら)さんの勧めた車だわ……普通じゃない。
でも私はこの車を長く愛用しようと心に決めていた。
ミッションカーで大変だろうけど、乗りこなしてみせる。

賑やかだったのか、姑と義姉がわざわざやって来た。
「こんにちは。お騒がせしてます。」
「かっこいい!素敵~~~!これ、私にも貸して!」

……え?
義姉の言葉は、私には衝撃だった。

もしかして、郡(こおり)家では、車は家族でシェアするもの?
迂闊だったわ。
そんな風に考えていなかった私は、保険も私1人の手続きしかしてもらっていなかった。

「すみません。すぐに、保険を家族適用していただけるように手続きしてもらいますね。」
義姉にそう言って、既に帰ってしまったディーラーさんに電話をしようとした。

すると姑が眉をひそめた。
「あら……夏子さん、ご自分お一人だけが乗るつもりで持ってきたの?」

ぐうの音も出ない。

「そうだったの!?」
義姉の声に非難の色が交じった。

……まずい。
いきなり、まずい。

「あの、みなさま既にご自分のお車をお持ちとおうかがいしてましたので……こんなに小さくて不便な車に興味を抱かれるとは思わず……」

実際、実用的ではないと思う。
一応4人乗りだけど、後部座席はめちゃくちゃ狭いし、ツードアだし。
これだけ車高が低いと、前に車がいると、かなり見通しが悪いのではないだろうか。

「あの、これから試運転に、お買い物に行こうと思っているのですが、ご一緒にいかがですか?」
保険の変更をお願いする電話を切ってから、そうお誘いしてみた。

義姉は顔を輝かせたけれど、姑は顔をしかめた。
「こんな狭いところに乗れませんよ。あなたたちだけで、どうぞ。不便な車を持ってきたものねえ。」

……確かに、姑は背は低めだけど横幅は大きかった……。
そして、義姉は上背があり、太ってるというほどではないけれど、がっちりしていた。

お正月に来た時に、義姉が私のコートを借りたがったけれどサイズが合わず断念してらしたっけ。