「ありがとうございます。奥様も、お疲れではありませんか?……あら!朝からシャンパンですか!奥様だけ!?まあああ!……お優しい旦那様で、奥様、ほんっとうにお幸せですわね。」

……ほっといてよ。
イチイチ勘に障るのは、たぶんこの女性が私に対してイイ感情を抱いてなくて、言葉に毒を感じるからなのだと思う。

でも、夫は全く気にならないらしく、逆に車に乗り込んでから、私が窘められてしまった。
「愛想を振りまけとは言いませんが、気に入らないことがあったとしても大人の対応ができるようになるといいですね。」
「だって、悪意を感じたんだもん。」

少しふくれてそう言うと、夫はほほ笑んだ。
「いいじゃないですか。夏子さんがうらやましいのですよ。あまり他人のマイナス感情に対して敏感に反応していては神経が持ちませんよ。ドーンと構えてらっしゃい。」
ドーンと、鈍感でいろ、と?
難しいわ。

夫と私は予定通りに、お礼のお菓子とお赤飯を持って挨拶に回った後、やっと夕方新居に帰宅した。

「疲れたでしょう。今夜は外食しましょうか?」
夫はそう言ってくれたけど、外食、正確には関東のお料理に飽きていた私は普段着に着替えてから台所に立った。

食材は既にイロイロ準備してある。
「お肉がいいですか?お魚がいいですか?和食?洋食?中華?」
……そう言えば、夫のために料理するのもはじめてだ。

夫はちょっとためらいがちに言った。
「恥ずかしいのですが、子供が好きそうな肉系の洋食が好きです。」
こってり系ってことかしら。

「わかりました。じゃあ、ハンバーグでも作りましょうか?」
夫は満面の笑みを浮かべて、うなずいた。
……かわいい。

小一時間ほどかけて、夕食を出した。
砥部焼の大きめのお皿に、ハンバーグに、マッシュドポテト、人参のグラッセ、小蕪のソテーを添えた。
サラダは、レタスと大根に人参のドレッシングをたっぷりかけた。
お味噌汁は、小蕪とお揚げさん……どこのお味噌がお好きかわからないので、とりあえずは信州味噌で作ってみた。

「あの、お口に合わなければ、改善しますので、遠慮なく言ってくださいね。」
一応そう言ってみたけれど、夫は無言であっという間に平らげてしまった。
「美味しかったです。夏子さん、お料理、本当に上手いんですね。これから毎日が楽しみです。」

……褒めてもらえてうれしいけど、もう少し味わって食べてほしい。
ご飯をおかわりしても、10分かからずに食べてしまった夫に、私はただただ呆気にとられた。

まあ、犬食いとか、食べ方が汚いわけじゃないので……いいんだけど……