結局、お風呂場で抱かれることはなく、再び慌ただしくベッドに運ばれて抱かれた。
夕べより余裕ができたのか、夫は少しだけ前戯をしてくれた……本当に少しだけで拍子抜けしたけれど。
よくわからないうちに私の中に精を放った夫は、そのまま寝入ってしまった。
……1回すると寝てしまうのかしら。

行為そのものには期待できないけれど、夫が私を愛しく想ってくれていることは伝わってきた。
とりあえずはソレに満足すべきなのだろう。
自分にそう言い聞かせたけれど、やはりため息が出てしまった。


10時頃、夫が目覚めた。
「……すみません、寝てしまいました。朝食、終わってしまってませんか?」
「大丈夫。11時ラストオーダーだから。ブランチ気分でゆっくりいただきましょ。」
ようやく夫の腕から解放されてベッドから出ると、急いで身支度を整えた。

品のいい桜色のクラシックラインのワンピースに白いジャケットを羽織り、白いバッグを携えた。
薄化粧を施し、髪をゆるくまとめると、夫は目を細めて褒めてくれた。
「よくお似合いです。」

……夫が2カラットのダイヤの指輪をくれたので、母が気合い入りまくってしまって、義父の財力を湯水のように使って私の嫁入り道具や着物、衣服を準備してくれた。
どこに着て行っても恥ずかしくない一流品揃いだ。

「よかった。栄一さんの好みがわからなくてすごく悩んだの。」
「夏子さんはどんな服も素敵ですが、やはり品のいいモノがいいですね。本当によく映えてらっしゃいますよ。」
夫の褒め言葉が心地よかった。

私は、ニッコリとほほ笑んで、夫の腕を取った。


先にチェックアウトを済ませてから、ブランチを食べに行った。
ホテルのイタリア料理店でのプレミアムブレックファーストには、朝食なのにスパークリングワインやトリュフがついていた。

「……私は運転があるのでジュースにします。夏子さんは?」
「じゃあ、スパークリングワイン。」

ヨーグルトやエッグベネディクトを楽しんでいると、不愉快なヒトが近づいてきた。
お世話になって、ウェディングプランナーだ。

「おはようございます。昨日はありがとうございました。今朝はごゆっくりされたんですね。」
……最後の言葉は余計だと思うわ。
心なしか、いやらしい笑いと声のトーンを感じて、私は口をつぐんだ。

「おはようございます。ありがとうございます。おかげさまで、昨日は披露宴を滞りなく終えることができました。」

夫は心から感謝の言葉を述べていた。