「結局、ご縁がなかったのかな。」

俺の腕の中に、すっぽりおさまってるくせに、なっちゃんはそんなことを言った。

「縁がなけりゃ、こうはならないし、こんなに続かないだろ。信じてもらってないみたいだけど、俺、ほんとになっちゃんのこと、好きだよ。ピロートークじゃなくて。」
何度となく繰り返して、甘~く想いを伝えたけど、なっちゃんの心には響かなかったようだ。

「……これが最後だとは思わないし、思えないけど……不毛な関係を続けてお互いに傷つけ合うのは、嫌。」
なっちゃんは、かたくなにそう言った。

「不毛ねえ。」




店を閉めた後、当たり前のように、なっちゃんとスーパーへ行った。
なっちゃんは俺の部屋で「最後の晩餐」を作ってくれて、2人で空腹を満たした。
そして、当たり前のように、抱き合った……。

「章(あきら)さん、ああいう人が好きなのね……」
なっちゃんが恨めしげにそう言った。

「別に、彼女のタイプが好きってわけじゃないけど。あの人は特別。」
俺の不用意な言葉は、ますますなっちゃんを不機嫌にさせた。

「むかつくー。何年ぐらい想ってるんですか?まさか、小門さんと結婚する前から、じゃないでしょうねえ?」
「……それ、聞く?情けないから言いたくないんだけど……たぶん一目惚れ。小門にフィアンセとして紹介されてから、ずーっと、彼女の幸せそうな笑顔が脳裏から消えてくれない。」

「はあ!?えーと、息子さんが中学生だから……15年近くも不毛な片想いしてるの?信じらんなーい!」
ぷんぷんしてるなっちゃんに苦笑した。

「なっちゃんだって、かれこれ10年だろ?」

なっちゃんは、キッと俺を睨んだ。
「そうよ!私の10年返してよ!もうっ!!!こんなに女々しくて未練ったらしい人だって知ってたら……」
そこまで言って、なっちゃんは俺にぎゅーっとしがみついてきた。
「……知ってても、たぶん、無理。くやしい~~。」

じんわりと温かく感じる。
なっちゃんの涙に申し訳なさでいっぱいになる。
「お互い、純情というか、しつこいというか……阿呆やなあ。」

「他人事みたいに言わないでよ~~~。」
ひんひん泣いてるなっちゃんの背中を撫でて、何度も髪や額にキスを繰り返した。

「あの人に、気持ち、伝えないの?」
鼻をすすりながら、なっちゃんが聞いた。

「……ないねえ。困らせるだけだし。」
俺の返事を聞いて、なっちゃんは首をかしげた。

「章さんは……どうしたいの?」
「どうもしない。幸せを願ってる。」

なっちゃんの眉間に皺が寄った。
「なにイイヒトぶってるの!章さんらしくない。」

「そうかもね。でも、ホントに何もできないんだよ。ちょうど今日確信した。」