・・・これで、終わりなのか。
嫌だ。
やっぱり嫌だ。

思わず、その手をギュッと掴んだ。
なっちゃんがビクッと震え、店内を、他のお客さまの目を気にした。
俺ももちろん気にはなったけど、今はそれどころじゃない。

「俺と一緒になってほしい。」

ざわついていた店内が、シーンとした。
大きな声を出したわけではないのに。

なっちゃんは大きく目を見開いた。
その目にみるみる涙が湧き上がってくる。

店内のお客さまが固唾をのんで見守っている中で、なっちゃんは首を横に振った。

「ごめんなさい。」

もちろんショックだけど、俺はこの数日のことを考えれば仕方ないかな、と感じた。

でも、店内のお客さま、特に常連さん達は黙ってはいなかった。
「何言うとるんや!恥ずかしがっとったらあかん!あんた何年マスターを追っかけとるんや!」
「出戻りでもいい、言うとーやろうが!」

さすがに驚いた。
なっちゃんは、びっくりしすぎて、涙も引っ込んだようだ。

「マスター、遅いわ~。待たされ過ぎたなあ。」
常連のおばちゃんが立ち上がってなっちゃんを抱きしめた。
「かわいそうに。いっぱい泣いてきたもんなあ。こーの、女たらしのせいで。」

なっちゃんはおばちゃんらに背中や頭を撫でられて、感極まったらしく泣き崩れた。

えええええ!?
何だ?この状況は。

呆然としてる俺を、常連さんたちが代わる代わる叱咤激励する。
・・・応援されてたのか、俺たち・・・こんなにも。

てか、よくよくみなさんの意見を聞いてみると、断わったなっちゃんが同情されて、俺が行状を責められているのか?

はは・・・。
何か笑えてきた。

なっちゃんの母親、小門、玲子、俺の両親、それに店の常連さん達。
みーんな、なっちゃんと俺をくっつけようとしてるのか。

・・・そんなに、俺たち、似合ってるか?
10歳も年が違うのに?

意味わかんねーよ。
・・・いや。
たぶん、なっちゃんが、それだけイイ子なんだろうな。

結局、俺は常連さんにさんざん説教されてしまった。
そして、なっちゃんは帰らせてもらえず・・・。

「明日、8時半出勤なので、早く帰りたいんですけど・・・」
との主張すら聞いてもらえず、おばちゃん達から励ましと慰めと、考え直すように説得され続けた。

閉店後、静かになった店内で、やっと俺たちは再び向き合った。

「ごめん。何か・・・疲れたな。」

なっちゃんは泣きはらした目でうなずいた。