俺は、いつもひとりだった。
 けど、孤独じゃなかった。音楽でいつも耳を塞いでた。っていうか、聴いてた。楽しくも、悲しくもない。ただ、人生って、つまんねー。いつ死んでもいい。って思ってた。
 あいつと出会うまでは…。

 「やっほー」
「やっほー」
こんな言葉、初めて使った。けど、なんだか胸がざわざわするのがわかった。こんなことも、初めてだった。
 俺は、毎日川原で「いつ死のうかなー」なんて、考えてた。そんな時、みずのきら、というやつに話しかけられた。
死にたいの?私はね、生きたいの。毎日、ここに来ているでしょ?暇なのね。まあ、私も一緒よ。毎日ここに来ている。けど、私は川の流れとか、空の青とか見て、ここの空気吸って、楽しいことを食べに来てんだ。
 これが、初めての会話だった。俺は、楽しいこと食べるってなんだよ?って、思った。けど聞かなかった。なんだか、こいつは好きだ、と思った。人生で、初めて。そして初めて、友達になりたいって思った。

 部屋に帰ると、本を読みあさった。「生」とか、「死」とか、そんな題材ばっか。そして俺は自分の小説を書き始めた。「痛み」について。俺にとって、痛みだけが、生きてる証だった。
 
 次の日。みずのに「ん」と言って、俺は手を見せた。みずのは泣いた。俺は、生まれて初めて、泣いた。二人、川原でわんわん。俺は、この日のために生きてたんだって気づいて、みずのに伝えた。みずのは、ゆうりはばかだね、生きよう?と言った。名前で呼ばれた。俺は笑い泣きした。嬉しい自分に驚いた。

 その日、小説に「地球が動き出した」と書いた。帰っても、俺は涙がとまらなかった。あいつが、いつの間にか、愛おしい、と感じるようになった。「その人は、愛を覚えた」と書き足した。

 「きらに見せたいものがある」
「そんなの、わかってた。だって、川原にノートパソコン持ってくる人、いる~?」
「なあ、きら。」
「なあに、ゆうり?」
「いや、なんでもない」
俺は、初めての感情に戸惑い、恥じらい、けど、嬉しかった。
「それより、見て。俺の小説なんだけど。痛み。」
「痛み?ゆうりらしいわ。見せて」
きらは、1ページの俺の小説を読むと、
「私が化粧するように、あなたは生きているのね」
と言った。俺は意味がわからなかった。
「あ?」
俺、頭いいのに。なんでわからないんだろう?悔しかった。

 俺は大学に久々に行ってみることにした。あまりに、暇だから。お母さんは、喜んだ。俺は、父はいない。けど、そんなこと、どーでもよかった。お母さんのことは、好きでも嫌いでも、どっちでもなかった。ただ、俺が学校に行くことを喜ぶ母は、なんかうざかった。

 「ゆうり」
いつも話しかけてくるのは、斉藤くんだ。
「やっほ」
「ゆうり、なんだか、太陽みたいになったな」
「なんですか?それ。」
「おいおい。また敬語かよ?でも、俺はそんなゆうりも好きだぜ」
なんなんだこいつ。死ね。うぜー。学校来るんじゃなかった。
心の中で毒づいた。
あー。頭ががんがんする。

 家に帰って、なんか、斉藤くんの言葉がこだました。
「俺はそんなゆうりも好きだぜ」
そして、きらに会いたいと思った。きらに電話したけど、出なかった。寝た。心とは裏腹にとても気持ちよく寝れた。