「あれ、ココハドコワタシハダレ」
「ここは大学の医務室、あなたは鼻が好きなハナコさん」
「鼻子じゃない!わたしは春子!!」
ぼんやりとした頭で言われた言葉に一気に頭が覚醒した。そう、わたしは春子。お鼻が大好きなピッチピチの女子大生。
「あーあ、まさか倒れるとはね」
呆れたような声を出したのは、リンちゃん。そう、私の親友の。
「記憶確認もいいんだけどね、なんで"艶やか"で倒れちゃうのよ」
もう、と腕を組みながら、リンちゃんは言う。
うん、なんでだろう。
というか今まで普通に顔、見れてたのに。
"艶やか"でござる〜とかいいながら、失礼な態度はその鼻で相殺してなんとかやっていたのに。
「とりあえず、運んでくれたのは冬馬くんだから、後でお礼しときなさいよ」
やれやれと首を振って、リンちゃんは私をみる。
だけれど、私は重大なことに気がついた。
「……めーるあどれす、知らない」
ぽつり、と呟くと、リンちゃんは目を見開いて驚いた。
「え?マジ?」
「うん、マジ」
はー、あんなに仲良くいちゃいちゃしてやがんのに、とリンちゃんらしからぬ悪態をつきながら、リンちゃんはあいぽんをとりだして振った。
「わたし、知ってるから」
ずきん。
ん?
「電話番号?メアド?」
ずきん。ずきん。
んん?
「まあ両方でいいか」
ずきん。ずきん。ずきん。
んんん?
「じゃあ、あいぽん出して、ってハルコ?どうしたの?」
喉の奥の奥の方がじくじくと音を出しそうで、それが胸に伝染する。ずきんと痛む胸の中心。あれ?心臓は真ん中にあるんだっけ?
「大丈夫?どこか打ったの?」
リンちゃんがさすさすとわたしの背中をさする。
懐かしい感覚に少しずきん、が弱まる。
「なんか、喉が、変、じくじくする」
「のど?」
「うん、胸の真ん中も変、ずきんってする」
「…むね」
そう言うとリンちゃんの掌が離れた。
つられるようにリンちゃんをみると、
ものすごい笑顔を浮かべていた。
鼻に至っては"美しい"。
「どうしたの」
今度はわたしが心配する番だ。
何時の間にか胸のずきんは消えている。
「ふふふ、これは楽しみね」
「何が?」
「メアドは本人から直接聞きなさい。あと、しばらく寝てた方がいいって。寝不足なんでしょう?」
「え?」
わたしの混乱をよそにリンちゃんは颯爽と医務室を出て行ってしまった。
確かに寝不足であったわたしは、ポフンと布団に戻り、寝直すことにした。
今日は午前で講義も終わったし。
高校時代では味わえなかった贅沢だ。
おやすみなさーい、と小さく言って、瞼を閉じる。
これまで寝れなかったのが嘘みたいに、わたしは夢の世界に沈んでいった。