階段を駆け下りて、よもぎちゃんにまたがっている奴の肩を掴むと振り向いたその瞬間に顔面を殴りつける。
 周りにいた奴も気づいて向かってくる前に、殴り倒すと、床でうずくまって震えているよもぎちゃんの体を無理やり引っ張り起こしてきつく抱きしめた。

「いってぇな。おい、5秒以内にそれを返せ。そしたら許してやんよ」

 顔面を殴った奴が身を起こして、あざ笑うように言う。

 それと言って指さされたよもぎちゃんは、恐怖に顔を引きつらせながらも俺の顔を見つめている。

「嫌だね。この子は渡さない」

 離れかけたよもぎちゃんを背後に隠して、睨み返す。

 周囲で雑談していた奴らまでも立ち上がって、俺を睨んでくる。

「お…大宮くん…」

「大丈夫。よもぎちゃんだけでも逃がすから」

 罪滅ぼしなんてできない。
 でも、あんな場面を見せつけられて放っておけるほど薄情でもない。

 緊迫した空気が倉庫内を満たす。
 誰か1人でも動いた瞬間に始まる。

 息さえするのを忘れて、集中しきった。