「…ついて来い」

 いいとも、ダメだという返事でもない言葉に思わず戸惑った。
 少しだけ顔をあげると、朔夜さんは部屋から出ようとしていて、その後ろに慌てて続く。

「朔夜さん!あの…」

「きゃぁああああ!!」

 甲高い悲鳴に言葉がかき消される。

 驚いて下を見れば、よもぎちゃんが数人の男に組み敷かれていた。

 …なんで。

「やだっやめてよ!!」

 泣き叫ぶよもぎちゃんの声に我に返って、隣にいる朔夜さんを見上げる。

「…っ朔夜さんどういう…」

「いっただろ。ここは、お前の考えてるほど甘い世界じゃねぇ」

 その時の朔夜さんの目は、今までよりずっと冷えていて、氷のようだった。
 あまりにも冷たく、感情のこもらない目は何を考えてるのかさっぱりわからない。

「蓬は嵐鬼の物だ。あいつをどうしようが俺たちの勝手だろう」

「ッ!?…でも、あんたさっき!!」

 よもぎちゃんを見れば、必死に顔を背けて目の前の事態を見ないようにしていて、よもぎちゃんが嫌がっているのは一瞬で分かった。

 不意に、よもぎちゃんの視線が俺の視線と交わる。
 声にならない声が耳の奥に響いた瞬間、俺は走り出していた。