「…母さん」
親父、ちゃんと働いてたよ。俺のこと、幸せになってほしいって言ってた。もう、あんときの親父じゃない。
鞄の中に入れておいた古びた手紙。宛名は親父へ。差出人は、母さん。
アルバムから出てきた手紙。封はしていなくて、迷ったけど中身を見てしまった。
でも、入っていたのはただ1枚の写真で、俺が赤ん坊だったころの、多分唯一の家族写真。そこで写っていた親父は、幸せそうな顔をしていた。
このころに戻ってほしいって、思ってたんだろうって。
写真に付いた涙の跡がその証拠。
写真に付いたしわが、母さんが我慢した証。
封筒に入った手紙を、親父の枕のとこにおいて部屋を出る。
過去は、切り捨てなくてもいい。でも、いつまでも背負うわけにもいかない。
だって、未来で背負うものがあるから。大切なものを守るために、心は緊迫していてはいけないから。
家族を守る。それは、未来の家族もだけど…。
決めた。やっぱり守りたい。家族を、大切な家族を、居場所を。家を。