今までどれだけ願っても会う方法もなかった。

 記憶にあるのは、母さんを罵倒し、ギャンブルと酒に溺れ、家族をめちゃくちゃにした姿だけ。

 正直怖い。殴られないか、罵倒されないか、否定されないか。怖い。

 だけど、もうここまで来たんだ。逃げない。逃げちゃダメなんだ。

 前に進むために、弱いままの自分と別れるために。

 寮の敷地内に入り、目の前にある建物をとりあえず目指す。たぶん、管理室みたいなところがあることを信じる。なかったら…また考える。

 建物の中に入ると、俺の心配は無用だったようで、ちゃんと管理室があった。白髪のじいさんが、のんびり新聞なんか読んでる。

「…あの、すみません」

「はい。…ずいぶん若い子が来たね。キミは?」

「俺、神野秋空って言います。親父がここにいるって聞いて」

「あぁ、神野さんの息子さんね。ちょっと待ってね」

 じいさんはまるで知ってたかのように笑って、奥に引っ込んでいく。

 心臓が痛いくらいに鳴る。緊張で口の中がからからになる。

 もう12年間も会っていない相手だ。いくら親でも、それだけ離れてると緊張する。