「ほら、食え!親父んとこのから揚げと出し巻き卵は最高だぜ?親父さんのところにも連れてってやるよ」
「いや、それは…」
「親子の感動の再会を邪魔してやるなよ?」
「あ、それもそうか…。ならバス代…」
「結構ですから!!!」
もうなんだこれ。本当に意味わかんねぇ。
店の人の助け舟のおかげで送ってもらうのは回避できたけど、俺の手には強引に渡された千円札が握られていた。
返そうとしたら、食べ終わったとか言って俺の伝票とともに席を立って行ってしまった。
店の人はああいう人だから気にするなって言われたけど…。
予定より2本も遅いバスに乗り込んで、さらに県の端の方向に向かう。
親父は、土木建設会社の寮に入っているらしく、人手の少ない地方を転々としているらしい。だから、送られてくる仕送りには北海道から沖縄までのさまざまな県になっていたんだ。
だけど、1度だって俺がいるこの県にも、隣接する県にだってやってこなかった親父が、何で今回に限ってここに来たのか。
話では、1つ前の赴任先にやって来た蓬の話を聞いた棟梁が、親父をここへ強制送還したらしいってことは、なぜかさっきのおっさんに聞いた。
終点のバス停で降りる。バス停は完全に山の中にあって、周囲は木で囲まれている。
今日の最終便が離れていく。もう、今日帰ることはできない。
荷物を持ち直して、古めかしい木の看板に書かれた『○×土木建築会社、独身寮』という場所を目指して歩き出す。とは言っても、正直目の前にあるけど…。