「蓬」

 朔夜さんの声。輝星さんと凪さんに離してもらって振り返ると、朔夜さんは何かを差し出してきてくれています。

「朔夜さん?」

「手出せ」

「あ、はい」

 両手を差し出すと、掌の中に落ちてきたのはボタンでした。

 思わず朔夜さんの制服を見ると、ブレザーのボタンが1つなくなっています。

「え、え!?」

「お守りだ。俺はもうお前を守れない」

「…朔夜さん」

「願掛けついでにな」

 学ランの第2ボタン的なものだったらどうしようかと思いました。でも、お守りだというなら、頂くべきですよね。

 朔夜さんの制服のボタンをぎゅっと握る。

「朔夜お兄ちゃん、ありがとう」

「…あぁ」

 朔夜さんの目が一瞬見開かれる。だけど、すぐにとっても優しい顔になる。

 頭を撫でてくれる手は、まだ総長になる前の朔夜さんと同じ優しさの一杯こもったものでした。