「…やっぱり、会わなきゃよかった」

「蓬!?待ちなさい!!」

 店を飛び出していく蓬を慌てて追いかける。

 どうして、本当の親に会えてうれしくないのか。本当の母親からの贈り物が嬉しくないのか。

 分からない。
 ずっと会えなかったんだ。

 だからこそ、嬉しいものじゃないのか?

「蓬!」

「ッお父さん!」

 ホテルを飛び出した蓬を止めたのは、若い声。
 その声に瞬時に反応した蓬は、わき目もふらずにまっすぐ飛び込んでいく。

 蓬を受け止めたのは、晴野さんで、晴野さんの腕の中で蓬は子どものように泣き出してしまっている。

「…蓬、大丈夫だ。帰ろう」

「待ってくれ、まだ…」

「これ以上、この子を追い詰めないでくれ」

 引き留めた声はあっさりと返される。
 その顔は父親のもので、何も言えなくなる。

 蓬を連れてタクシーに乗り込んだ晴野さんは、俺を見ようともせずにそのまま走り去っていった。