「…清牙?」

 こんな清牙を見るのはケンカの時だけだ。

 いつもは温厚で、こんな顔絶対にしない。そんな清牙が睨んでいるのはあの母親で、今にも駆け出してしまいそうな思いを必死に抑え込んでいるのがわかる。

「お~い、清牙、剣人?」

 ついてきてないことき気づいた俊也と颯人が立ち止まり、俺たちを不思議そうな目で見る。

「いい加減にしろ!!」

 何の前触れもなかった。

 怒鳴り声が耳に飛び込んできた直後に聞こえた鈍い音と、声にならない悲鳴。

 顔を向ければ、さっきまで腕を掴まれて歩いていたはずの女の子が母親の足元で体をくの字に折り曲げて倒れていた。

「お前は!何回手を煩わせれば気が済むんだ!」

 信じられないような光景が繰り広げられる。

 容赦なく落とされる足の下には子どもがいて…。

 こんなの、しつけなんかじゃない。ただの暴力だ。しかも、あんな小さな子に…。

 女の子は泣く元気もないのか、ぐったりと地面に倒れたままだ。

 足が、女の子を襲うたびに跳ねる小さな体。

 呆然と見ているしかなかった俺の隣から不意に人影が消える。

「清牙!?」