着ていた上着の中に蓬を入れてみればすっぽり収まって、赤ん坊を抱いてる母親のような気分になる。
蓬は嫌がることもなく随分おとなしく収まってくれたから、やりやすかった。
「行くぞ。ちゃんと服掴んでろよ」
こくんと頷いて見せた蓬に、切ってあったエンジンをふかせる。
その音に、さっきはビビらなかったくせに今度はビクッとしてしがみついてきた。
蓬を落とさないようにいつもより慎重にバイクを走らせて、向かったのはアパートじゃなくて、仲間うちで占領している倉庫だった。
倉庫を囲む塀の中に入ると、外でだべっていた奴らが急に姿勢を正して直立不動になる。
暗いせいか、俺の腹のところが膨れてることなんて誰も近づいてくるまで気付かなかった。
「総長、腹どうしたんすか!?」
「あぁ。ちょっとな」
バイクを預けて、傍から見れば膨れた腹を抱えて倉庫内に入っていく俺を、下っ端たちはぎょっとしたような顔で見てくるが、声をかけようとは思わなかったらしい。
上着の中で大人しい蓬は、外の様子を気にする様子もなく、じっと俺の顔を見上げているだけだった。