「その本持ってる」


ぼそっとつぶやいたようなかすかな声が聞こえた。


持ってる……?


もしかして、ネコが好きなのかな。


声の方へ耳を傾けると、高校生らしき男の子と目があってしまった。


黒縁メガネで、うなじをすっぽり覆った長めの黒髪。


一見暗そうに見えるその雰囲気も、グレーのセーターの中にある第一ボタンまで締められたきっちりしたネクタイが、真面目さを引き出している。



その人は何を言うでもなく、私の手の中にある1冊の本を興味がありそうに見ていた。


変な人だなぁ…


それが彼への第一印象だった。