「どうして、離してくれないの?」
直球で聞いてみたら、柏木くんは黙ってしまい、静かな空間が漂う。
「…力になりたいんだ」
小さな声だった。
だけど、はっきり聞こえた。
柏木くんの思いが、胸に強く響いた。
私は振り返って、柏木くんと向き合う。
顔はまだ涙で酷かったけど、今はそんなこと気にならなかった。
だって、柏木くんの方がぐちゃぐちゃだったから。
きれいな目は赤くなり、ほおには数え切れないほどの涙のあとがある。
いつもにこにことした優しい表情が、別人だと思うくらい、嗚咽を出して泣く大量の感情によって消えていた。