四の五の言っても、今更後の祭りだ。
どうせ屋敷に帰ったところで、バトラーや口うるさいメイド頭に小言を言われるだけだ。
せいぜい、このキャンプを楽しむさ。
取り敢えず、テントの設営を始めるか。
インナーテントのスリーブにメインポールを差し込んだところで、いつの間にかヒューバートとアリシアが姿を消していることに気づく。
ったく!二人してさぼるつもりかよ。
いくらなんでもこのでかいテントを一人で組み立てるのは無理だ。
組み立てていたポールを地面の上に置くと、二人の名前を呼びながら川沿いに一帯を探す。
少し下ったところで、ボロボロの納屋から一筋の煙が上がっているのを見つけ、それがヒューのタバコの煙だと確信する。
納屋の戸を開けると思った通り、部屋の隅に置かれた樽に腰かけ、タバコを燻らせているヒューを見つける。
「おい、誘拐犯。さぼってないでテントを立てるから手伝えよ」
「えっ?あ~……悪いな。今、行く」
ヒューがヨロヨロと樽の上から立ち上がると、戸口に向かって歩き出す。
どうしたんだ?
さっきまでのハイテンションなヒューとは打って変わって覇気がない。
それに、辺りを見回してもここにいるのはヒューだけだ。
「アリシアは?」
ヒューの肩がビクリと跳ね上がる。
嫌な予感がする。
俺はヒューの肩を掴むと、彼の前に回り込む。
「アリシアはどこだ?お前、一緒じゃなかったのか?」
「……一緒だったよ」
「じゃぁ……」
「ふられた」
「えっ?!」
切なそうに顔を歪めたヒューは、茶色い髪をくしゃくしゃに掻くと、大きな溜息を吐いて、肩をがっくりと落とす。
「さっき、告って……断られた」
「告ってって……」
「好きなやつがいるから、そいつ以外はダメって感じ」
「アリシアがそう言ったのか?」
ヒューは首を横に振ると、近くの樽に腰を下ろし、うなだれる。
「オレの、『勘』ってヤツかな。アリシアは『好きな人なんていない』って否定していたけど……。そう言うのは自然と分かっちまうもんだろ?」
「そ……うか?」
俺には分からない。
あいつの言うとおり、俺はドンカンなのか?
「だけど、何もあんな14歳の子供を相手にしなくてもいいだろう?」
「……アリシアはもう十分、『女』だよ。他の州じゃ、結婚だってできる年齢だぜ?
お前が勝手に子ども扱いしているだけだろ」
ヒューは、薄っすらと笑うと、タバコを壁でもみ消した。
「この間さ、隣りのクラスのジェイクがアリシアに告ってた。
先週の頭には、アリシアと同級のジミー。
それから、先週末にやっぱり俺とクラスメートのマイケル……。
だけど皆、アリシアに告白してフラレてるのさ。それを見れば、フツー焦るさ。
他のヤツに盗られる前に、俺のモノにしちまおうってね」
全く知らなかった。
あいつは何も言わないから……。
そう言う肝心な事は昔から、俺には一切言わない。
って、言うか、こいつもいきなり兄兼保護者の俺になんの断りもなくあいつに告白とかナシだろう。
抗議したかったが、ヒューの落ち込みっぷりハンパなく、俺は黙って言葉を飲み込む。
「アリシアにフラレタ男どもの屍累々ってとこだな。
俺もめでたく、本日仲間入りって訳だけど、これからも諦めるつもりはねぇぜ。
ここまで白状したんだから協力してくれるよな、お兄様」
ヒューが答えを待たずに「サンキュ」と言いながら俺の肩に置いた手を、なぜか苦々しい思いで見つめていた。
どうせ屋敷に帰ったところで、バトラーや口うるさいメイド頭に小言を言われるだけだ。
せいぜい、このキャンプを楽しむさ。
取り敢えず、テントの設営を始めるか。
インナーテントのスリーブにメインポールを差し込んだところで、いつの間にかヒューバートとアリシアが姿を消していることに気づく。
ったく!二人してさぼるつもりかよ。
いくらなんでもこのでかいテントを一人で組み立てるのは無理だ。
組み立てていたポールを地面の上に置くと、二人の名前を呼びながら川沿いに一帯を探す。
少し下ったところで、ボロボロの納屋から一筋の煙が上がっているのを見つけ、それがヒューのタバコの煙だと確信する。
納屋の戸を開けると思った通り、部屋の隅に置かれた樽に腰かけ、タバコを燻らせているヒューを見つける。
「おい、誘拐犯。さぼってないでテントを立てるから手伝えよ」
「えっ?あ~……悪いな。今、行く」
ヒューがヨロヨロと樽の上から立ち上がると、戸口に向かって歩き出す。
どうしたんだ?
さっきまでのハイテンションなヒューとは打って変わって覇気がない。
それに、辺りを見回してもここにいるのはヒューだけだ。
「アリシアは?」
ヒューの肩がビクリと跳ね上がる。
嫌な予感がする。
俺はヒューの肩を掴むと、彼の前に回り込む。
「アリシアはどこだ?お前、一緒じゃなかったのか?」
「……一緒だったよ」
「じゃぁ……」
「ふられた」
「えっ?!」
切なそうに顔を歪めたヒューは、茶色い髪をくしゃくしゃに掻くと、大きな溜息を吐いて、肩をがっくりと落とす。
「さっき、告って……断られた」
「告ってって……」
「好きなやつがいるから、そいつ以外はダメって感じ」
「アリシアがそう言ったのか?」
ヒューは首を横に振ると、近くの樽に腰を下ろし、うなだれる。
「オレの、『勘』ってヤツかな。アリシアは『好きな人なんていない』って否定していたけど……。そう言うのは自然と分かっちまうもんだろ?」
「そ……うか?」
俺には分からない。
あいつの言うとおり、俺はドンカンなのか?
「だけど、何もあんな14歳の子供を相手にしなくてもいいだろう?」
「……アリシアはもう十分、『女』だよ。他の州じゃ、結婚だってできる年齢だぜ?
お前が勝手に子ども扱いしているだけだろ」
ヒューは、薄っすらと笑うと、タバコを壁でもみ消した。
「この間さ、隣りのクラスのジェイクがアリシアに告ってた。
先週の頭には、アリシアと同級のジミー。
それから、先週末にやっぱり俺とクラスメートのマイケル……。
だけど皆、アリシアに告白してフラレてるのさ。それを見れば、フツー焦るさ。
他のヤツに盗られる前に、俺のモノにしちまおうってね」
全く知らなかった。
あいつは何も言わないから……。
そう言う肝心な事は昔から、俺には一切言わない。
って、言うか、こいつもいきなり兄兼保護者の俺になんの断りもなくあいつに告白とかナシだろう。
抗議したかったが、ヒューの落ち込みっぷりハンパなく、俺は黙って言葉を飲み込む。
「アリシアにフラレタ男どもの屍累々ってとこだな。
俺もめでたく、本日仲間入りって訳だけど、これからも諦めるつもりはねぇぜ。
ここまで白状したんだから協力してくれるよな、お兄様」
ヒューが答えを待たずに「サンキュ」と言いながら俺の肩に置いた手を、なぜか苦々しい思いで見つめていた。