サリーから無事、弁当を受け取るとアリシアの後に続き、親友のヒューバート・キンケイドが用意してくれた車の後部座席に乗り込む。

アリシアは、じっと窓の外を見ていてさっきから一言も口を利かないまま、気まずい雰囲気が俺たちを包んでいた。

小一時間した頃、車は深い森の奥へと入って行き、やがて停まる。



「ここらで停めて歩くか」


ヒューバートは車から降りると、荷物を降ろし始める。

アメフト体形で大柄のヒューバートは、タバコを口に咥えながら軽々といくつも荷物を持ち上げる。



「おい!ヒュー!」


あまりの荷物の多さに驚いた俺は、荷物を担いで目の前をスキップするように歩き出したヒューの肩を掴む。


「どうした、ジョージ?」


ヒューがキョトンとした顔で、振り返る。


「何だよ?!この荷物は?」

「……えぇっと、これが、テントだろ。これがシェラフで、でもってこれが……」

「違う!中身の説明をしろって言ってるんじゃなくて……」

えっ?
テント?!
シェラフ??

「お前、今、なんつった?何でピクニックにテントやシェラフが必要なんだよ!」

「ああ、まぁ、そりゃぁ~、宿泊キャンプに変更したからさ」

「聞いてないぞ!そんなことっ!」


アリシアはちんまりとした荷物をフーフー言いながら、ヒューの胸倉を掴んでいる俺の横をちょこまかと通り過ぎていこうとしている。

呆気に取られていた俺だったが、慌てて手を伸ばし、アリシアの行く手を遮る。


「待てよ!冗談じゃない!キャンプなんて……。俺達が帰らなきゃ、屋敷の者達が心配するだろ?!」

「ああ。それは、大丈夫だって。さっき、電話しといたから。
バトラーが出て、カンカンに怒ってたけどな」


いつの間に……。


軽い目眩を覚える。


『キンケイドの人間と係わり合うとろくな目に遭いませんよ』


以前、ご丁寧に忠告してくれたバトラーの言葉を今更のようにありがた~く思い出す。



「まじかよ……」

「ジョージの負けね」


項垂れる俺の横をすり抜けながら、アリシアがにっこりとトドメを刺す。