「後少しだ!」と言うところで、俺はハタと大切な事を思い出した。


「……やべっ!弁当……」

「どうしたの?ジョージ?」


急に止った俺の手を、アリシアがきつく握り締める。


「早く逃げないと捕まっちゃうわ!」

「いや。それが、サリーが俺達のために弁当を密かに作ってくれてるんだ」

「……サリーが?!」


サリーは、真っ赤な赤毛が印象的な16歳になる元気な女の子で、去年テキサス州からお手伝いとしてこの屋敷にやってきた。


「お坊ちゃま、内緒ですよ」

人差し指を立てては夜中にこっそりとコーヒーを煎れてくれたり、俺が怪我をしたと聞くと真っ青になってすぐに救急箱を持って駆けつけてくれたり、何かと良く俺に尽してくれていた。


だけど……。

厨房までには最も危険な経路……バトラーの部屋の前を通らなくてはならない。

今日一番のデンジャラスな冒険になる。


「お前、先に行ってろよ。弁当を貰ったら後を追い駆けるから」

「私も行く!」

「足手まといだ。失敗したら元も子も無くなるんだぞ」

「だって……。じゃ、お弁当は……諦めましょうよ……」

「せっかく用意してくれているのに?
サリーに悪いよ」