俺が嫌々ながら日本語と格闘していた時、急にドタバタと廊下を走る足音がする。


次の瞬間、勢い良く扉が開く。


「ジョージ!ピクニックに行けないって本当なの?!」


髪をくしゃくしゃにし、干草をその金髪に絡ませたままのアリシアが飛び込んで来る。


「こらっ、アリシア。はしたないぞ」


俺は肘杖を付きながら、アリシアを睨む。


「ちゃんとノックしろって、いつもバトラーから注意されてるだろ?
『レディーらしく慎ましやかに』」


バトラーの口調を真似して、もう一度やり直しを命じる。


アリシアはしおらしくスゴスゴと扉を閉め、ノックし直す。


「どうぞ」


俺の入室を許可する声に、アリシアは再び大喜びで勢い良く扉を開ける。


「ねぇ!ジョージ!一緒に行けるよね!?」



……ぜんっぜん、ダメだろ。


俺は頭を抱え、心の中で笑いながらも、レディーとしてのアリシアの将来を憂える。


傍らで見ていたフジエダもクスクスと笑いながら、それはそれは愛おしそうにアリシアを見つめている。

なんだろう……。

ムカムカする。

この胸のムカムカの正体は一体、何だ?



俺は椅子から立ち上げると、アリシアの腕を掴む。


「これじゃ勉強になりませんから、追い出してきます」

「そっ!そんな?!追い出すなんて、酷いわ!ジョージ!!」


抵抗するアリシアを外の廊下に連れ出すと、後ろ手に扉を閉める。