「ええ。あなた様のお母様、オリビア様はヘイワーズ様の唯一のご令嬢にあらせられました」

「母さんが?!」


聞いてないぞ、そんなこと。

猫の額ほどの小さなあばら屋の壊れかけた窓が、風に吹かれてキィキィと音を立てる。


「ご存じなかったようですな。
ところで、ジョージ様。アリシア様は、今はどちらに?
お二人ご一緒にお連れするように仰せつかって参ったのですが……」


僕ははっとなり、銀髪の老人をどけ、扉を開けて辺りを見渡す。


「アリシアはさっき孤児院の修道女が引き取って、今、駅に向かってるんだ!
奪い返してくる!」

「ジョージ、もう間に合わない。私が次の駅に連絡して……」


神父の言葉を待たずに僕は家を飛び出した。


汽車の出発まで間に合ってくれ。


僕は道なき草原を、飛ぶように走った。

草原が切れて飛び出した僕の目の前に、黒塗りの車がキキーーっと止った。


「お乗り下さい!詳しいお話は神父様からお伺いしました!」


先程の銀髪の男が車のドアを開けた。