「俺だって理恵子が好きだったよ。本気だった。だからこそ、離れた後の俺たちが、どうなるのか想像できなかったんだと思う。潮時だと思った。またこうして会えて、本当によかったよ」
「そうね。……私も後悔したわ。あのとき、結果的にあなたの、別れたいという申し出を受け入れたことを。泣いてあなたを責めたけど、私も悪かったの。冷静に気持ちを伝えれば良かったのに」
二人の会話を聞きながら、疑問に思っていたことが、徐々に確信に変わっていくのを感じていた。
二人は特別な関係だ。……芝居なんかじゃない。テレビで見た、彼女に向けた彼のあの笑顔は……本物なんだ。
「俺は結局、逃げだしただけかも知れないな。あのときは君が……まだ好きだったから」
「またこうして会えたことは、運命だと思ったわ。あなたの気持ちを聞けて、良かった。ずっと心に引っかかっていたの」
ガタッ。
私の足が、手前にあるテーブルに当たり、音がした。
二人は話をやめて私を見た。
「え。誰……?」
「……芹香……?」
拓哉が立ち上がる。
私は、なにも言えずに呆然と立ち尽くす。
色々な思いが、走馬灯のように心に浮かんでは、泡のように消えていく。
言いたいことを、うまく見つけられずにただ、彼を見つめた。