東陽ホテルの玄関は、カメラを持ったたくさんの人が押し寄せていた。
身体をかがめて、人垣をうまく切り抜け中に入る。

ロビーの中央に位置する階段には、案外すんなりとたどり着けた。一気に駆け上がり、先ほどテレビで見た、大広間に向かう。
パーティーは終わった様で、開いた扉から人が次々に退出していく。押し寄せる人の流れに逆らいながら、やっとの思いで、大広間に足を踏み入れた。

誰もいない大広間の照明は、すでに落ちていて、ほんのりと薄暗い。そんな中、微かに聞こえた話し声の方を見る。

「ふふふっ。だけどね、拓哉は高嶺の花だと諦めながらの、ダメ元の告白だったわ。だってあなたは、すごい人気だったもの」

「よく言うよ。そんな感じじゃなかったよ。断ったらどうなるか分からないほどの気迫でさ。強気な言いかただった」

テーブルに向かい合って座り、談笑するカップルがぽつんと見える。

「だって好きになってしまったんだもの。あなたと付き合いたいって、それだけを思って必死だったのよ」

「だから、その気持ちが伝わったから、理恵子を受け入れたんだ。一瞬で君を好きになった。不思議だよな」

「拓哉に想いが伝わって、嬉しかったわ。幸せだった」

私は、一歩ずつ、ゆっくりと二人に近づいて行った。