「彼女は行かせない!当たり前だろう!芹香ちゃん、来るんだ」
突然、佐伯さんが私の手首を掴んで引っ張った。
「いた……っ」
その力の強さに私は驚いて、思わず咄嗟にその手を振り払った。そのまま拓哉の手を掴む。
「拓哉……っ!」
「芹香!」
私の手を、拓哉が強く握り返した。
一瞬の出来事だった。名前で呼び合い、手を取る私たちの顔を、佐伯さんは交互に見る。
……しまった。そう思ったときには、もう遅かった。
「君たちは……?今……」
繋いでいた手をぱっと離した。
「いえ、……なんでもありません。すみません。では、時間がないので、これで失礼します。秋田さん、急ごう」
拓哉はそれだけ言うと、この場を去ろうと歩きだした。気まずさを振り払うように、私もその後に続く。
「聞き間違いじゃ……ないよな?……いつの間にそんなに仲良くなったんだい?……まさか二人で行こうと思ったのも、計画的なことなんじゃ……。わざと運転手を空白にしたのかい?」
すれ違いざまに、佐伯さんが言う。
拓哉が足を止めて、佐伯さんを睨んだ。
「課長、違います。わざとじゃありません!今回のことは、本当に……!」
拓哉の返事を聞かずに、佐伯さんは再び私の腕を掴むと、力を込めて引っ張りつけた。
「きゃっ!」
私の身体が拓哉から引き離され、佐伯さんの背後に引き寄せられた。