***

「お待たせしました。遅くなってすみません」

出発予定時間が近くなった頃に、部署に駆け込んだ。

「いや、いいよ。ちょうど今日の処理が終わったとこだから」

拓哉はそう言いながら穏やかな笑顔で立ち上がる。

「じゃあ早速行こうか。本当に大丈夫?今ならまだ、行くのをやめることもできるけど」

「行きます」

私は、挑むような心境で彼を見上げた。
運行に付いていくことを許してもらったが、これから拓哉の気が変わらないとも限らない。
彼とふたりで話したいのもあるが、やはり自分の仕事のミスを彼一人に背負わせることには抵抗がある。

「ははっ。分かったよ。やっぱり止めても無駄みたいだな」

そんな私の意気込んだ顔を見て、クスクス笑う彼の後について廊下に出た。


「あ。……さえ……」

数歩歩いたところで、突然なにかを呟き、彼は歩くのをやめた。その背中にぶつかりそうになった私は、驚きながらつま先に力を入れて止まる。なんとか踏みとどまった。

「ちょ……!主任っ。急に止まっ……」

顔を上げ、彼を見た。その視線は正面に向けられている。つられて私も、そちらを見た。

「やあ、星野くん。聞いたよ、港まで運行に行くんだって?」