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今も、記憶の中にある。
あの日の夜の街並み。
君と交わした会話。
その表情や声。
何もかもすべてが、色褪せることなく鮮明に。
芹香と手を繋いで、イルミネーションの光る街を歩く。
「綺麗だね。嬉しいな。来年もまた、一緒に来ようね。きっとだよ」
そう話しながら、芹香ははしゃいだ様子で、頭上に煌めく光のアーチを見上げる。
そんな彼女の、輝く笑顔を見下ろして俺はふっと笑った。
「……寒い?鼻が赤くなってる。まるで歌に出てくるトナカイだな」
俺が言うと、芹香は口を尖らせた。
「もう。バカにして。真面目に言ってるのに」
「ごめんごめん。かわいいからさ。ついね」
俺の言葉に、彼女は俺を見上げて再び笑顔に戻った。
「かわいい?本当にそう思う?」
「本当に思うよ」
「じゃあ、許そうかな」
「はははっ。単純だな」
子ども扱いしたような言い方だったのに、今度は彼女は拗ねなかった。
俺を見つめて笑う。
もうじきクリスマスを迎えるこの季節。
街は色づき、人が溢れる。
あと数ヶ月で、芹香と付き合いだして一年になろうとしていた。
順風満帆な関係だったと思う。芹香は確かに俺を愛している。それを実感していた。
俺も、そんな日々を大切に抱きしめるようにしながら、彼女と時を刻んでいた。
その頃の俺は、二人で一緒にいることが、なによりも幸せだった。