すぐに準備に向かおうと、デスクの上を慌てて整理する私を、彼はじっと見ていた。
それに気付かないふりをしながら、バッグを持って立ち上がる。

「主任、じゃあとりあえず一旦、お先に失礼します」

「君が……一緒に来たい本当の理由はなに?」

突然の問いかけに、私は動きを止めた。

「本当の……理由?」

聞き返しながら、彼を見る。

「責任感だけなの?本当にそれだけ……?もちろん、理由として、それが大きいのは分かる。だけど……それだけじゃないよね。今から二人になるのは、本当ならば気まずいんじゃないの」

見つめ合う二人の間にあるものは、本当に仕事のことだけ?
……いいえ。そうだ。きっと、あなたの言う通り。違うわ。

言われて、改めて気づく。どうして、必死で付いて行くと訴えたのか。
彼と二人きりになりたかった。佐伯さんに疑われてしまわないような、口実が欲しかったのかも知れない。
私は、確かめてみたいのだろう。

彼と、本当の意味で終わるためには話し合いが必要だ。
二人のこの先の未来は、交わることなどないことを、実感したい。
それがどれだけ、苦しいことでも。
期待するのは、もうやめる。
明日には、きっと。

「運行を見届けたいのが第一の理由です。だけどそう言われると……ふたりきりになりたいのも否定はできません。きっと……主任が考えていることが、正しい理由だと思います。私は知りたいの。これからのことを。もう、終わらせてしまいたいんです」

そう答えた私に、彼は魅惑的な笑顔を見せた。

「望むところだよ。俺もきっと、君と同じだから。きっと君には分かってもらえる。あのときのことも……」

「しっ失礼します!」

笑顔に見惚れる前に、彼から目を逸らした。そのまま駆けて、その場を離れた。
逃げ出すことしか、今の私には、自分を守る術はない。そんな自分が嫌だった。

こんな感情はいらない。
どこか遠くに捨てて、失くしてしまいたいと、心から思った。