「そうだね……。こちらの都合で、約束の時間を遅らせる訳にはいかないな。……いいよ、時間通りに行くから。外注はしなくてもいい」
拓哉は彼にニコッと笑うと、スーツの上着を脱いで椅子にかけた。そしてネクタイを、肩にひょいとかけて、ワイシャツの袖を捲った。
そのまま残りの仕事に取り掛かる。
急に仕事を再開した拓哉を、私たちは唖然としながら見ていた。どうしてそんなに余裕なのか、意味が分からない。
「主任!外注しないならば、誰があの大型特殊トレーラーを運転して港まで行くんですか。お客さんにいい加減なことは言えません。その場しのぎなら……」
彼の質問に、拓哉はパソコンを打つ手を止めずに答えた。
「大丈夫。俺が行くよ。この入力をもうすぐに終えるから。そしたら七時には間に合うだろ?」
「えっ」
私と萌と森山さんは、驚いて固まった。
「主任、特殊車両の免許を持っているんですか。あの車両は、大型免許以外にもまだ資格が……」
森山さんは唖然とした表情で尋ねた。
「うん。必要な資格なら以前取ったんだ。乗れるよ」
そんな私たちに、彼はなんでもないことのように言う。
「森山さんはもう戻っていいよ。秋田さんはあと少し、残りを急ごう。島村さん。飲み会はまた今度でいいかな。島村さんも定時までは仕事に戻って頑張ってね」
「は、はい」
「分かりました」
驚きながらも、二人は返事をしてからこの場を離れた。
私は、どうしたらいいのか分からなかった。
大変なことをしてしまった。
脚が震えだす。