「主任!大変です!今夜の港行きのトレーラーの運転手がいません!運行表が空白になってます」

また、今度は別の場所から声がして、私たちは一斉に声のした方を向いた。

入口から、慌てて駆け込んで来た男性は、物流課で配車を担当している森山さんだった。

「えっ。運行表が空白?どういうこと?」

拓哉が聞き返す。

「便の手配が未完了になっていて、予定に入っていなかったので、運転手が入っていないままで。集荷の催促を受けて判明したんです。車なら、ちょうど一台空いてるんですけど」

話を一緒に聞いていた私は、ドキッとして、青ざめた。
まさか。

機械を運ぶ便は、私と拓哉が手がけているプロジェクトだ。失敗は決して許されない、今の我が社にとっての重要業務のひとつ。運賃は、月に数千万円にもなる予定だ。
ひと月後には、この件に携わる新部署が設立される。
今は仮契約だが、トラブルが起きなければ本契約になる。
現段階でのミスは、契約を白紙に戻される恐れがある。


「あ……。あのっ。それ……、私が……仕立てていた便かも知れません。すぐに調べます」

思わず口を挟んだ。
突然の私の発言に、皆が私の方を向く。
私は慌てて書類のファイルに手をかけた。
だけど……自分でも、本当にそうなのかは半信半疑だった。

だが、ファイルをパラパラとめくりながら、急にそれが確信に変わった。
そうだ。
拓哉と再会して混乱していた、あの日。
きっと、途中で便の手配を忘れてしまい、他の作業に入ってしまったんだわ。思い出した。

「秋田のミスなのか!?いい加減な仕事をされては困るよ!会社の信用問題に発展しかねないんだぞ?君にこの企画は、荷が重いのではないかと初めから思ってたんだよ!」

森山さんが私に怒鳴り声を上げる。

「そんなミスを犯すくらいなら、この仕事を辞退するべきだったんじゃないか?」

「すっすみません!!」

どうしたらよいか分からず、謝ることしかできない。
立ち上がり、ガバッと頭を下げた。謝ってもどうしようもないけれど……。
どうしよう。
森山さんの言う通りだ。
気持ちが浮ついている証拠なのかも知れない。
拓哉のことで、頭がいっぱいだから。

「ちょっと待って」

私に詰め寄るような勢いの森山さんを、拓哉が片手を前に出して制す。

「責任は俺にある。彼女にちゃんと仕事内容を伝えきれてなかったみたいだ。……代わりの空いている運転手はいるかな?休みの人とか。申し訳ないが、控えの人に頼むしかないかな」

「代わりなんていません!特殊車両を運転できる社員は皆、県外に出ています!とりあえず委託先を当たってみますか?」

森山さんが興奮気味に言う。
そんな彼の様子は、事の重大さを物語っている。

拓哉は一瞬、考えるような仕草をしてから、森山さんに向き直った。

「外注は無理だ。予算がない。赤字になってしまう。請求の上乗せはできないからね。うちが悪いから」

「しかしこのままじゃ」

森山さんは拓哉の返事を受けて、腕時計を見ながらもどかしそうにしている。
私はそんな二人の様子をただ、見ているしかできない。

「運転手が誰もいないので、この際仕方ないんじゃないですか。工場が閉まる時間があるから、七時には集荷に行かなければならないと契約にあります。少しなら荷主に待ってもらえるかも知れませんが」