「突然だったから、止められなかったんだ。秋田さんには明日にでも謝るよ」
「お前は芹香ちゃんが嫌いだったのか?なんとなく、今日見ていて思ったよ。避けてるから気づけなかったんじゃないかってね。だけど、あからさますぎるんじゃないか。少なくとも芹香ちゃんはお前に好意的に見えるけどな」
富樫は、上目遣いの責めるような視線で俺を見る。
今日、彼女を避けたのは、彼女の気持ちが突然、透けて見えてしまったからだ。
「別に俺は、彼女を嫌ってなんかないよ」
「拓哉は、皆には優しいくせに、芹香ちゃんにはあんなに冷たくするんだな。意味が分からないよ。彼女が被害に遭った後も結局、声すらかけないし」
富樫の言葉が、心に突き刺さる。
確かに、彼女を意図的に避けていた。
なんて言ったらいいのか分からなかった。
責任を感じていたせいもある。
「そんなふうに見えるのか。気をつけるよ……」
何も言い返せない。
「実はさ、これから俺は、芹香ちゃん狙いでいこうかと思ってるんだよね。もしもうまくいけば、俺が彼女を守っていくから。そしたらお前は別に、今日みたいな感じでいいよ。必要以上に優しくされたら、芹香ちゃんまでお前を好きになってしまう。ほかのやつらみたいにな」
「えっ。お前、秋田さんが好きなのか?」
「まあな。好きっていうか、可愛いなって思ってる。前からいいって言ってきただろ。そんな中、あんな勇敢な姿まで見るとさ。ぐっとくるよな。まあ、まだ本気って訳じゃないんだけどな」
急に彼が言い出したことに、俺は明らかに動揺した。
富樫の気持ちを聞いて、何故かモヤモヤした感情が生まれていた。
富樫がこれから本気になって、彼女に気持ちを告げたら、彼女は富樫と付き合うのだろうか。
俺への気持ちは、消えてなくなるのだろうか。