「この女……!」
男が怒りの表情を見せた瞬間。
「どうしたんだ!?何があった?」
カウンターの奥のスタッフルームから、一緒にシフトに入っていた富樫が飛び出してきた。
「このお客さんが、喧嘩の仲裁に入った秋田さんを叩いたんだ」
俺が簡潔に説明すると、富樫の顔色が変わった。
「ええ?!芹香ちゃん!大丈夫か?!」
彼は、芹香の肩を抱き寄せ、自分の後ろに彼女を移動させると、客の男を睨みつけた。
「本当にそんなことをしたんですか?!お客様、暴行罪ですよ!」
男は、富樫に言われると、途端に勢いを失くし呆然とした顔つきになった。
「拓哉、オーナーを呼んできてくれ。二階にいると思うから」
「あ……ああ。分かった」
その場を離れ、歩きながらやりきれない思いが襲ってくる。
手のひらに爪が食い込むほどに、拳を握りしめていた。